最高裁判所第一小法廷 昭和56年(オ)858号 判決
上告人
八木政次
右訴訟代理人
田邊尚
被上告人
株式会社ゆうきや
右代表者
長峯一郎
被上告人
長峯一郎
被上告人
長峯チエ
右三名訴訟代理人
瀨沼忠夫
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人田邊尚の上告理由について
判旨刑事上罰すべき他人の行為により攻撃又は防禦の方法を提出することを妨げられたことを理由に再審を申し立てる当事者は、右犯行に及んだ者が有罪の判決を受けその判決が確定したことを証明するか、又は有罪の確定判決を受ける可能性があるのに、被疑者が死亡したり、公訴権が時効消滅したり、若しくは起訴猶予処分を受けたりしたために有罪の確定判決を得られなかつたことを証明することを要するものであることは、当裁判所の判例の趣旨とするところであり(最高裁昭和三九年(オ)第一三七四号同四二年六月二〇日第三小法廷判決・裁判集民事八七号一〇七一頁)、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決の右判断の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(藤﨑萬里 団藤重光 本山亨 中村治朗 谷口正孝)
上告代理人田邊尚の上告理由
原審は、民事訴訟法四二〇条二項の法意に照せば、既に死亡した森本大造ら三名の脅迫行為の存在について、有罪判決をなしうる程度の証拠のない限り、再審の訴の適法要件を充足しないと解するのが相当であると判示する。
しかしながら、既に死亡した者の脅迫行為について、捜査権も有しない一般私人が、有罪判決をなし得る程度の証拠を蒐集することは実際上不可能である。右の様な立場を採るなら、脅迫者が死亡した場合は、大赦、公訴時効の完成、情状による不起訴の事実が証明できない限り、再審は不可能ということに帰着する。
従つて、民事裁判の公正を最終的に保障する再審制度の趣旨を貫くためには、脅迫をなした者が死亡し、右大赦等の事実が証明できない場合、脅迫行為の存在について、申立人より、有罪判決をなし得る程度でなくとも、一応の証明がなされたならば、再審の適法要件としてはこれを充足したものとし、脅迫行為により提出を妨げられたとする証拠を、従前の証拠に加え、改めて再審裁判所において確定判決の当否を判断すべきものと考える。
以上の見地から、原審の前記判示は民事訴訟法四二〇条二項の解釈を誤り、引いては憲法三二条に違反するものである旨主張する。